2007/05/15

あぶら

江戸時代の照明器具といえば行灯(あんどん)だけど、あれって中にお皿が入っていて、そこに油と灯心があるのだ。
その灯心がろうそくの芯のように油を吸って、そこに火がともって明るくなるわけ。
でも、今の照明に比べるとものすごく暗くって、たよりないものだったらしいよ。
むかしはまわりが真っ暗だったからそれでも明るかったんだろうけど。
なにしろ、月夜だと明るいってことだったくらいだから。
ネオンがあふれる現代では信じられないよね、でも、星はきれいに見えたかな?

で、なぜか化け猫はこの行灯の油をなめるのだ。
これにはわけ(?)があって、裕福な家では行灯の油にアブラナ(いわゆる菜の花)からしぼった菜種油をつかったんだけど、そうでない家では鰯からしぼった鰯油なんかを使っていたんだって。
当然そういう油は魚のにおいがするので、猫がなめることもあったみたい。
それで化け猫もいつしか行灯の油をなめるというわけなのだ。
他の妖怪でも油をなめるのがいるけど、それは夜まで灯りをつけて働くことを邪魔するもの(ひまむし入道なんかがそうだよ。)だったりで、目的は違うのだ。

江戸時代には、今のようにたくさんの種類の油があったわけじゃなくて、メジャーだったのは菜種油やごま油、鰯油、綿実油(綿の実からしぼった油)、大豆油なんか。
西洋では、オリーブ油、ブドウ油(ブドウのタネからしぼった油)、バターなんかなのだ。
で、時代が下ると新大陸原産のトウモロコシからとるコーン油や、南国から伝わったココナッツ油、ベニバナ油(花は染料だけど、タネから油が取れるのだ。)、カカオバターなどどんどん種類も増えていくんだよね。

ちなみに、サラダ油というのは「サラダに使う油」ということで、いまいち分類が違うのだ。
他のはみんな材料で分けているんだけど、サラダ油の場合は、天ぷら油なんかと同様で用途で分けているんだよね。
日本のサラダ油の多くは菜種油かコーン油をきれいに生成したものなんだって。
菜種油なんかはしぼったままだと色も黒っぽくてにごっているんだけど、これをきれいに精製し、にごりをなくして透明にしたものがサラダ油として売られるんだって。

で、「あぶら」と言えば、「油」と「脂」という漢字があるけど、これには違いがあるんだよ。
「油」と書いた場合は常温で液体のものを指し、「脂」と書いた場合は常温では個体のものを指すのだ。
なので、ブタのラードは「脂」なわけ。
そんなに厳密な区別でもないんだけどね。
両方をあわせた総称が「油脂」なのだ。

それと、最近は「トランス・ファット」なんて言葉をよく見かけるけど、これは油の中の成分のひとつなのだ。
油の中には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸というのがあって、飽和脂肪酸は炭素鎖の中に二重結合がまったくないもの、不飽和脂肪酸はそれがあるものなのだ。
で、「トランス」っていうのは、この炭素の二重結合のところの炭素鎖の位置関係のことで、└=┘というように同じ方向に炭素鎖が向いているのを「シス」体、逆に、└=┐というように別々の方向に炭素鎖が向いているのを「トランス」体というのだ(「=」は炭素の二重結合だよ。)。
で、どうもこの「トランス」体の方が悪さをする油であることがわかってきたので(動脈硬化などの循環器系の障害のリスクを高めると言われているのだ。)、最近は「トランス・ファット・フリー」なんてことを言うようになったのだ。
日本ではまだまだだけど、欧米ではけっこう規制が進んでいるんだよ。

天然の油の中には、リノール酸やオレイン酸などの不飽和脂肪酸が入っているんだけど、どうもみんなシス体なんだよね。
で、これが酸化したりして劣化すると(古くなったり、揚げ油として使っていると酸化してくるのだ。紫外線にも弱いよ。)、トランス体が増えてくるみたいなのだ。
不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸に転換したりして油を加工するときにもできるので、マーガリンやショートニングといった加工品にも含まれるみたい。
なので、「トランス・ファット・フリー」なんてうたっているものは、きっと天然の油を使っていたり、油の管理をきちんとしているものなんだよね。
そういう意味でもそっちの方がよさそうな気がするよ(笑)

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