2008/02/06

毒入り餃子を食べる前に知っておきたいこと

今まさに問題になっている中国産の「毒」入り餃子は有機リン酸系の農薬が付着していたんだよね。
なんと、この農薬はナチス・ドイツが開発した毒ガスのVXガスやサリン(オウム真理教が地下鉄の霞ヶ関駅などにまいたやつだよ。)と同じような作用があるものなんだよ!
VXガスなんかは毒性がものすごく強くて、皮膚に付着しただけでも作用が出てしまうんだけど、しかも、化学安定性も高くて長い間そこにとどまるので大変なものなのだ!
もともとは有機リン酸系の農薬は殺虫剤に使っている神経ガスよりは毒性が弱いもので、虫がつかないようにするものなのだ。
事故じゃなくて故意にやったなんていう話も出てきているけど、だとしたら立派なテロなのだ。
なんだかこわいよねぇ。

この神経ガスや農薬の毒性の作用機序は、神経伝達物質のアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼという酵素を阻害することなのだ。
アセチルコリンは副交感神経や筋肉の運動神経なんかの神経伝達物質なんだけど、通常は情報を伝達した後はすぐに分解されてしまうのだ。
でも、コリンエステラーゼが阻害されるといつまでもアセチルコリンが分解されずに神経節や筋肉との接合部に残ってしまい、ずっと神経興奮が「オン」の状態になってしまうのだ。
筋肉への作用はこわくて、アセチルコリンで情報が伝わると筋肉は収縮するんだけど、その後、アセチルコリンが分解されるとその作用がなくなって収縮するんだよね。
でも、アセチルコリンが消えないとずっと収縮したままになってしまうので、体がけいれんして、ついには呼吸困難になってしまうのだ!
副交感神経への作用としては、血圧低下、徐脈、縮瞳(瞳孔が小さくなること)などの症状が出て、血圧低下と徐脈でふらふらsて身動きがとれなくなるのだ。
アセチルコリンは中枢神経でも重要な働きをしているので、さらに意識障害も出てしまうんだよ。
本当におそろしいものなのだ。

この神経ガスや農薬の中毒症状に使われる薬がプラリドキシムヨウ化メチル(通称PAM)や硫酸アトロピンなのだ。
PAMは農薬の中毒の解毒薬として作られたもので、コリンエステラーゼの酵素としての活性中心に結合して機能を失わせている神経ガスや農薬を再び切り離す作用があるのだ。
それによりコリンエステラーゼが酵素活性を取りもどして、中毒症状が緩和されるんだよ。
地下鉄サリン事件では多くの人の命を救ったんだよね。
でも、この神経ガスなんかの中毒症状は一定時間が経つと不可逆的な(元にもどせない)作用が出てしまうので(ようは酵素からはずせなくなるのだ。)、その前にPAMを投与しないといけないんだって。

アトロピンはアセチルコリン作用性の神経や組織で航コリン作用を示す薬で、副交感神経を抑制することで、心拍数の増大や胃腸管の運動抑制なんかに使われる薬なのだ。
これはベラドンナという植物に含まれるアルカロイド(アルカリ性の物質)として発見されたんだけど、ベラドンナは古くから毒草として知られていたなよね。
でも、ベラドンナにはもうひとつの使い方があって、そのエキスを点眼すると、瞳孔が開いて(散瞳)、目が大きく見えるようになるのだ(神経ガスにたられると逆に瞳孔が小さくなるのと対照的なのだ。)。
なので、そう言う目的でも使われていたんだ。
ベラドンナというのはイタリア語で「美しい女性」という意味なんだよね。
このアトロピンもサリン事件で活躍した薬なのだ。

アトロピンはやっぱり毒草であり薬草でもあるチョウセンアサガオにも含まれているんだ。
あの、日本で始めて麻酔を使った外科手術をした華岡清洲さんも、チョウセンアサガオやトリカブトからとった成分で麻酔薬を作ったのだ。
今でもアトロピンは麻酔前投与薬として使われていて、麻酔を打つ前にあらかじめアトロピンを投与しておくと、気管支拡張、胃腸管運動抑制、唾液分泌抑制、徐脈防止などの効果があるんだ。
筋肉も弛緩するので、手術がしやすくなるんだよね。
かなり古い薬だけど、その分使い方が熟知されているので、今でもよく使われる薬のひとつなのだ。

それにしても、今回の毒入り餃子事件は本当に意図的に行われたものだとすると、サリン事件と同じようなものなんだよね。
こわいことなのだ。
アトロピンならたいていの病院にはあると思うけど、普通はPAMなんかは常備していないだろうから、大量に中毒の人が出てきたら大変なのだ。

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