2007/09/29

くさりかけがおいしい

よく「食べ物はくさりかけがおいしい」なんて言うよね。
実は、この言葉には一定の真実があるのだ。
完全に腐敗してしまったら当然食べられないけど、ちょっと時間をおいて多少分解が進んだ方がうま味成分が出てきたりするものなのだ。

例えば、牛肉なんかは2週間から1ヶ月くらい熟成させてから出荷されるんだけど、これはこの間にもともと体の中にある酵素でタンパク質の自己分解が進んで、うま味成分のアミノ酸が出てくるからなのだ。
でも、肉の場合は同時に臭みも出てくることがあるので、その兼ね合いが大事なのだ。
臭みが強い肉はそんなに熟成できないし、臭みが少なければ長期間熟成させられるわけ。

魚の場合も時間が経つとうま味成分は出てくるんだけど、同時に脂肪も分解されて、独特の生臭みのもとになる不飽和脂肪酸も出てくるんだよね。
なので、魚の場合は新鮮なうち、臭みのでないうちに食べるのだ。
でも、干物なんかにした場合は、乾燥させることで臭みを抑え、熟成を進めてうま味成分を出せるんだ。
アジは新鮮なうちに刺身やたたきで食べてもおいしいけど、開きにするとまた味にコクが出てくるというわけなのだ。
イワシやサバのような青身の魚は特に分解が進むのが早いので、イワシは丸干しにするし、サバは酢で締めるんだよね。
シメサバなんかはお酢で酵素を不活性科して分解を止めるとともに、同時に殺菌して日持ちもよくするという高等技術なんだよ。
ちなみに、鮒寿司に代表されるような「なれ鮨」の場合は乳酸発酵させることでタンパク質を分解し、アミノ酸を作らせているのだ。

果物でも腐りかけが甘いというけど、これは人間の舌ではあまり甘いと感じないオリゴ糖類や多糖類が分解されて単糖類(特にブドウ糖や果糖)が出てくるからみたい。
野菜も自己分解が進むと単糖類が出てくるので多少甘みが出てくるのだ。
でも、野菜や果物はやわらかくなってくるから、食感を楽しみたい場合には新鮮なうちに食べないとダメなんだよね。
モモなんかの場合はじゅるじゅるになった超完熟が好きな人もいるみたいだけど。
ボクは多少歯ごたえがある方が好きなのだ。

熟成が進むのはお酒も同じで、よく時間が経過したお酒が珍重されるよね。
ワインなんかは時間が経つとタンニン成分が徐々に重合して大きくなって「おり」として沈んでいくんだけど、このとき雑味成分なんかもいっしょに沈んでいってぬけていくみたい。
でも、ゆっくりと沈殿させていかないと、「おり」が全体に分散してしまうので、文字どおり「寝かせる」ことが重要なのだ。
ウィスキーなんかの場合は樽で熟成させるけど、こうすることで雑味成分が樽の表面に吸着したり、樽から材料の木(オーク材)の精油成分がアルコール中に溶け出したりするのだ。
これで独特の色と香りがつくんだよね。
でも、それだけじゃなくて、時間が経つとお酒の中の成分自体にも変化があるのだ。
新たに高分子ができて渋みがなくなったり、色がついたりすることもあるし、高分子が分解して甘みが出たりするのだ。
お酒の作り方によってどういう熟成が進むかは違うけど、日本のお酒では泡盛の古酒なんかが有名だよね。
中国では紹興酒も瓶で熟成させるのだ。

古くなると劣化することも多いけど、中にはかえって熟成が進んで価値が上がるものもあるんだよね。
人間の場合もただ年を重ねて老いぼれになっていくんじゃなくて、人生経験で自分を熟成させて、より価値の高い存在になるようにしたいものなのだ。

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