2007/10/18

超細菌あらわる

米国では「スーパー・バグ(super bug)」が猛威をふるっている!、という報道が盛んになされているのだ。
これは薬剤耐性細菌のことで、AIDSによる死亡数よりも、薬剤耐性菌の感染による死亡数の方が多くなったそうだよ。
特に有名なのはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA:Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)が有名だけど、その他にもいろいろいるんだよね。
とにかく通常の抗生物質が効かない細菌のことなのだ。

ペニシリンやストレプトマイシンといった抗生物質は、細菌特有の細胞壁の合成や核酸合成といった反応を阻害することで細菌の増殖を止めるんだけど、これらの抗生物質を無効化したり、抗生物質がきかないメカニズムを手に入れたりした細菌が薬剤耐性菌なのだ。
多くの場合は、染色体DNA(デオキシリボ核酸)とは独立して存在している環状の小さなDNAのプラスミッドに薬剤耐性遺伝子が含まれているのだ。
染色体DNAは細胞分裂の時に増やされるだけで、それぞれの細胞が1コピーずつ持っていくんだけど、このプラスミッドは数多く作られるんだよね。
しかも、どうも細菌同士がふれ合っただけでやりとりができるようで、薬剤プラスミドを持っている細菌が少しでもあると、まわりの細菌まで薬剤耐性を持つようになってしまうのだ!

このプラスミドは細菌の中で簡単に増やせるし、最近への導入も比較的簡単なので分子生物学では重要なツールとして使われているんだよね。
でも、自然界でも薬剤耐性遺伝子のようなものがプラスミドを介して自然に細菌の間を行ったり来たりしているのだ。
プラスミドが伝達するのは薬剤耐性遺伝子だけじゃなくて、他の遺伝子を運ぶこともあるんだよ。
プラスミド以外でも、細菌に感染するバクテリオファージ(細菌界のウイルスなのだ。)も一部の遺伝情報の運び屋になることが知られていて、自分の遺伝情報を細菌の染色体NAにもぎり混ませて増えるんだけど、出て行くときにもともとその感染した細菌が持っていた遺伝情報を取り込んで出て行ってしまうことがあるのだ。
これが次の細菌に感染すると、その前の細菌が持っていた遺伝情報を新たな細菌に持ち込んでしまうというわけ。
一時期話題になったO157は赤痢菌のベロ毒素を持った大腸菌なんだけど、どうもバクテリオファージによる感染で赤痢菌の毒素を獲得したと考えられているんだよね。

通常の薬剤耐性細菌は普通の細菌に比べると増殖スピードが遅かったりしてそんなに増えることはないんだけど、普段から抗生物質があふれているような環境だと、通常の細菌が生存できないから、薬剤耐性菌ははびこるようになるのだ。
MRSAの感染が主に院内感染で起こるのはこのためで、病院のようにふだんから抗生物質が多く使われている環境では普通の細菌は増えることができなくて、唯一増えることのできる薬剤耐性細菌の天下になるということなのだ。
近年ではこの弊害を防ぐためにできるだけ抗生物質は使わないように、という方針も出ているんだけど、カゼを引いただけでいまでもすぐに処方されるよね。
抗生物質はカゼには効かなくて、あくまでも合併症の肺炎を防ぐだけなんだけど。

薬剤耐性細菌は通常の抗生物質が効かないのでやっかいなんだよね。
細菌による感染症の症状なので当初は抗生物質が投与されるんだけど、まったく効かずに症状が改善しないという事実に気づいてはじめて薬剤耐性細菌の感染が疑われるのだ。
多くの薬剤耐性細菌は複数の薬剤に対して耐性を持っているのもさらにやっかいな点で、効く薬が限られているんだよね。
でも、その薬を使いすぎると新たな耐性細菌が生まれるし、いたちごっこなのだ・・・(>_<)
こういう細菌感染症は体の免疫力が落ちている人や老人・子どもといった抵抗力の低い人たちに感染するから、ほっといて治る、ということもあまり期待できないんだよね。

とにかくやっかいな問題なので、抗生物質の使用は必要最低限に抑える、とか、細菌の感染自体を防ぐよう常に清潔を心がける、とかそういうことが大事みたい。
養殖のハマチとかに抗生物質がエサに混ぜられて与えられているなんて衝撃的なニュースもあったけど、そういうところでも抗生物質を口にしている可能性があるから注意が必要なのだ。
普段から自分でも意識することが重要なのかも。

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